リスク管理・資金管理

投資初心者が最初に知るべき「バルサラの破産確率」とは?

投資初心者の皆様、こんにちは。

将来のために資産形成を始めたいけれど、「投資で大損したらどうしよう」という不安をお持ちではないでしょうか。

ファイナンシャルプランナーとして、多くの方のご相談を受ける中で痛感することがあります。それは、「投資で失敗する人の多くは、運が悪かったのではなく、資金管理のルールを持っていなかっただけ」ということです。

投資は、一攫千金を狙うギャンブルではありません。数学的な裏付けに基づき、リスクをコントロールしながら資産を積み上げていく「事業」のようなものです。

本日は、投資の世界で自身の資産を守るための最強の盾となる理論、「バルサラの破産確率」について、初心者の方にも分かりやすく解説します。この概念を知っているかどうかで、あなたの5年後、10年後の資産残高は劇的に変わるはずです。


投資初心者が最初に知るべき「バルサラの破産確率」とは?

1. 投資で退場する人の共通点

まず、厳しい現実からお話ししなければなりません。投資の世界には、「退場」という言葉があります。これは、資金を大きく減らしてしまい、二度と投資ができなくなる状態を指します。

退場してしまう人には、驚くほど共通した特徴があります。

  • 「勝率」にこだわりすぎる: 「10回中何回勝てるか」ばかりを気にしています。
  • 一度の失敗を取り戻そうとする: 負けた後に、カッとなって賭け金(投資額)を増やしてしまいます。
  • 「損切り」ができない: 含み損を抱えたまま、「いつか戻るはずだ」と祈り続け、最終的に耐えられなくなって全財産を失います。

これらはすべて、「自分の資金が底をつく確率」を知らないことに起因します。

ここで登場するのが、数学者ナウザー・バルサラが考案した「バルサラの破産確率」です。これは、以下の3つの要素を使って、「そのトレード(投資行動)を繰り返したとき、最終的に破産する確率は何%か?」を算出したものです。

  1. 勝率(Win Rate): トレード全体のうち、利益が出た回数の割合。
  2. 損益率(Risk Reward Ratio): 勝ちトレードの平均利益額と、負けトレードの平均損失額の比率。
  3. プロフィットファクター(リスクにさらす資金比率): 総資金に対して、1回のトレードで許容する損失の割合。

この理論が教えてくれるのは、「たとえ勝率が高くても、資金管理を間違えれば、確率は100%の確率で破産へ収束する」という冷徹な事実です。


2. バルサラの破産確率表の見方

バルサラの破産確率は、通常「表」として示されます。ここでは、その表が示す重要な相関関係を、直感的に理解できるように解説します。

まず、以下の式を頭の片隅に置いてください。

破産確率が決まる仕組みは、以下の3つの要素の関係性で表せます。

【 破産確率の決定要因 】 破産確率 = f( 勝率 , 損益率 , リスクにさらす資金量 )

つまり、この3つのバランスが崩れると、破産確率は一気に高まるのです。

以下を見ると、衝撃的な事実が分かります。

ケースA:勝率60%の「優秀な」投資家

「10回やって6回勝てる」と聞くと、かなり優秀に見えますね。しかし、もしこの投資家が「勝つときは1万円儲かるが、負けるときも1万円損する(損益率1.0)」というトレードをしていて、さらに「1回の勝負で全財産の10%を賭けている」としたらどうなるでしょうか?

バルサラの表によれば、この設定でも破産確率は数%存在します。運が悪ければ資産はゼロになります。もし損益率が少しでも悪化(例:0.8)すれば、破産確率は一気に跳ね上がります。

ケースB:勝率40%の「負け越し」投資家

一方、「10回やって4回しか勝てない」投資家がいます。しかし、彼は「勝つときは2万円儲かり、負けるときは1万円の損で止める(損益率2.0)」というルールを徹底しています。

この場合、破産確率はほぼ「0%」になります。つまり、半分以上負けているのに、資産は右肩上がりに増えていくのです。

重要な教訓

バルサラの破産確率表が私たちに教えてくれるのは、「破産確率が1%でもある投資は、長く続ければいつか必ず破綻する」ということです。私たちが目指すべきは、破産確率が数学的に「0%(限りなくゼロに近い安全圏)」になる領域だけで投資を行うことです。


3. 「勝率」よりも「損益率(リスクリワード)」が重要な理由

初心者の多くは、「どの銘柄が上がりますか?」「いつ買えば当たりですか?」と、勝率を上げる情報を探し求めます。しかし、プロの投資家が最も重視するのは勝率ではなく、「損益率(リスクリワードレシオ)」です。

損益率は以下の式で求められます。

【計算式】 損益率 = 平均利益額 ÷ 平均損失額

なぜこれが重要なのか、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。

【シミュレーション】10回のトレードを行った場合

パターン①:勝率90%・損益率0.1(コツコツドカン型)

  • 勝ち: 1万円の利益 × 9回 = +9万円
  • 負け: 10万円の損失 × 1回 = ▲10万円
  • 合計: ▲1万円の損失

9回連続で勝って喜んでいても、たった1回の大きなミスですべてを失います。これを「コツコツドカン」と呼び、初心者が最も陥りやすい罠です。

パターン②:勝率40%・損益率3.0(損小利大型)

  • 勝ち: 3万円の利益 × 4回 = +12万円
  • 負け: 1万円の損失 × 6回 = ▲6万円
  • 合計: +6万円の利益

ご覧ください。10回中6回も予想を外しているにもかかわらず、手元にはしっかりと利益が残っています。これが「損小利大(損失を小さく、利益を大きく)」の威力です。

未来の相場を100%当てることは、誰にもできません。しかし、「負けるときは小さく負けて、勝つときは大きく勝つ」というルール設定は、あなたの意志だけでコントロール可能です。

投資で生き残るために必要なのは、予知能力ではなく、この損益率を維持する規律なのです。


4. 資産を守るための「2%ルール」の徹底

では、具体的にどのようにリスクを管理すれば、バルサラの破産確率を「0%」に近づけられるのでしょうか。

世界中の著名なトレーダーや投資本で推奨されている黄金律があります。それが「2%ルール」です。

2%ルールとは?

「1回のトレード(投資)で失っても良い金額は、総資金の2%以内に抑える」という鉄則です。

例えば、あなたの投資用資金が 100万円 だとします。

この場合、1回の投資で許容される損失額は、最大で 2万円(100万円 × 2%)までです。

なぜ「2%」なのか?

これには明確な数学的理由があります。資金を失ったとき、元の金額に戻すために必要なエネルギー(利益率)は、損失が大きくなるほど指数関数的に困難になるからです。

以下の表を見てください。

資金の減少率元に戻すために必要な利益率難易度
2% 減少約 2.04%容易
10% 減少約 11.1%可能
20% 減少25.0%困難
50% 減少100.0%極めて困難

資金を半分(50%)失ってしまうと、残った資金を2倍(100%増)にしなければ元に戻りません。投資の世界で資産を2倍にするのがどれほど大変か、想像できるでしょうか?

しかし、2%の損失であれば、次のトレードで少し利益を出せばすぐに取り戻せます。

2%ルールを守り続ける限り、仮に10回連続で負けたとしても、資金の80%以上は手元に残ります。 これこそが、相場という荒波の中で生き残るための命綱なのです。

実践のためのステップ

投資を行う際は、以下の手順で投資量を決定してください。

  1. 損切りラインを決める: 「株価がここまで下がったら売る」という価格をチャートを見て決めます。
  2. 損失幅を計算する: (購入価格 - 損切り価格)= 1株あたりの損失額。
  3. 数量を調整する: 総資金の2% ÷ 1株あたりの損失額 = 購入可能な株数

多くの人は「100万円あるから100万円分買う」という行動をとりますが、これは間違いです。「万が一損切りラインに達しても、損失が2万円で済むような数量だけ買う」のが、プロの資金管理です。


まとめ:投資家としての第一歩を踏み出すために

「バルサラの破産確率」は、投資が運任せのギャンブルではなく、緻密なリスク管理の上に成り立つものであることを教えてくれます。

  1. 勝率だけにこだわらず、「損益率(リスクリワード)」を重視する。
  2. 負けるときは小さく負ける(損切りを徹底する)。
  3. 1回の損失を総資金の2%以内に抑える。

これらのルールは地味で、退屈に感じるかもしれません。しかし、一瞬の煌めきではなく、生涯にわたって資産を守り、増やし続けるためには不可欠な土台です。

市場は逃げません。焦らず、まずはご自身の資金量と許容できるリスクを計算することから始めてみませんか?

堅実な計画こそが、あなたを本当の意味での「投資家」へと育ててくれるはずです。


【FPからの次のステップ】

まずは、ご自身の現在の投資資金(余剰資金)を確認し、その「2%」がいくらになるか、電卓を叩いて計算してみてください。その金額が、あなたが一度のリスクで晒してよい「安全な損失額」です。ここを把握することから、堅実な資産形成は始まります。

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